相続放棄は取り消すことができるのか?|相続放棄は弁護士に相談

代表弁護士 田中 克憲 (たなか かつのり)

故人が亡くなった直後の慌ただしさの中、相続人は決められた期限内で相続の承認か放棄を選択しなければいけません。しかし、急いで相続放棄してしまった後に、やっぱり放棄を取り消したいと考えることもあります。

ここでは、相続放棄を取り消すことができるケースと弁護士への相談の必要性について解説します。

相続放棄が取り消しできるのは、例外的ケースに限られる

民法第915条に記載されている通り、相続人は相続の開始から3ヶ月以内に相続放棄を行う必要があるとされており、また第919条では、一旦相続放棄の手続きを完了すると、その後の取り消しはできないとしています。

しかし、第919条第2項では、他に定められた規定により相続放棄の取り消しが可能な場合について明記されています。

  • 民法第96条 詐欺や強迫行為により意に反する相続放棄を強要された時
  • 民法第5条 法定代理人の同意を得ず未成年相続人が独断で相続放棄した時
  • 民法第9条 成年被後見人が独断で相続放棄した時

上記に該当する場合は、相続放棄の手続きを完了した後でも取り消すことができる可能性があります。

詐欺や強迫行為等の不法行為による相続放棄は取り消すことができる

民法第96条では詐欺や強迫行為によって相続放棄することを強要された場合、これを取り消すことができるとしています。

例えば相続人の1人から、故人はプラスの財産よりもマイナスの財産の方がはるかに多いから相続放棄しなければ債務を負うことになる、と言われた内容を信じて放棄したものの、実は虚偽であり遺産のほとんどがプラスの財産であったような場合、詐欺行為により相続放棄させられた状態と考えることができます。

あるいは、他の相続人からひどい恫喝を受け、そのまま単純承認すると大きなトラブルに発展しそうな恐怖を感じた、といった場合は強迫行為により相続放棄させられたと言えるかもしれません。

勘違いによる相続放棄は取り消すことができる可能性がある

民法第95条では、勘違いによる法律行為の実行は錯誤とされ無効になる旨が記載されています。しかし、どのようなケースでも勘違いが原因であれば取り消しが可能なのではなく、法律行為を行った際にその内容を全く勘違いしていた場合に限られます。

例えば、生前の故人が子に対し、財産放棄して故人の妻に全財産を譲るように言ったケースについて考えてみます。

相続の開始後に故人の意思に沿って財産放棄したところ、いざ財産の名義変更段階になって、故人の親兄弟に至るまで全ての相続人の相続放棄が行われるか、妻に全財産を譲ることに合意した遺産分割協議書が必要であるとわかったケースでは、法律行為を勘違いのまま進めてしまったことになり、錯誤があったと認められる可能性があります。

ただし錯誤による取り消しは簡単には認められず、裁判所が総合的な事情と証拠をもとに判断するものですので、故人の指示や当時の状況を証明できる証拠をできるだけ集め、事前に弁護士と入念な打ち合わせを行った上で相続放棄の取り消しについて裁判所に申し立てる必要があります。

相続放棄の取り消し手続きは家庭裁判所に対して行う

詐欺や強迫等の不法行為を原因とする相続放棄や、未成年者や成年被後見人が勝手に行った相続放棄については、取り消しの手続きを行うことが認められています。これを相続放棄の申述と言い、以下の手順に従って家庭裁判所に申し立てを行います。

  • 相続放棄取り消しの申立人は相続放棄を行った相続人と同一人物であること
  • 故人の最終的な住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てること
  • 相続放棄を行ってから10年以内かつ追認可能な時から6ヶ月以内に申し立てること

十分な財産調査を行い、安易な相続放棄及びその取り消しを避けることが重要

一度相続放棄してしまうと、後からその取り消しを認めてもらうことは非常に困難になります。このため、相続を承認するか放棄するかの選択を行う前に、十分な財産調査を行わなければなりません。

承認か放棄かの決定期間は相続の開始から3ヶ月以内ですから、相続人が協力して速やかに故人の財産について手分けして調べ、相続放棄の必要性があるかどうか結論を出す必要があります。

しかし一般的に、故人がどの金融機関にどれくらいの預貯金を持っているか、不動産を所持しているか、詳細を把握することは簡単ではありません。財産調査と言っても何をすべきか迷っているうちに相続放棄の期限が近づきますし、相続税申告に間に合わなくなるケースも考えられます。しかも、間違って財産を使ってしまう危険性も否定できません。

何が財産に当たるのか、調べるために何が必要なのか、具体的にどう動けば良いのか迷うことが多い一方で、相続に経験の深い当事務所では財産調査の流れを熟知していますし、弁護士の特権である照会を利用して財産調査を迅速かつ確実に行うことができます。

短期間で財産調査を行う困難や、間違って相続放棄するリスクを軽減するためにも、速やかに当事務所の弁護士へ相談されることを強くおすすめしています。

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