内縁のパートナーに遺産を相続させることはできますか?【弁護士解説】

代表弁護士 田中 克憲 (たなか かつのり)

さまざまな事情から、法律婚を選ばない(できない)というカップルは珍しくありません。
ここで、問題になるのが、亡くなった方に内縁の妻(夫)がいた場合の扱いです。
そこで、今回は、宿谷弁護士に内縁のパートナーへの相続について伺いました。
 

事例

私は60代の男性です。
3年前から内縁関係にある女性がいます。
子どもは、離婚した前妻との間に1人います。
現在一緒に暮らしている女性との間には子どもはいません。
家族に反対されているなどの事情もあり、今後も彼女と籍を入れる予定はありません。
しかし、仮に私が先に亡くなった場合、残された彼女の生活が心配です。
彼女に遺産を相続させてあげたいのですが、私の希望は叶うでしょうか?
 

法律婚をしていないカップルに相続権は認められない

ーまず、単刀直入にお伺いしますが、今回の事例のように内縁のパートナーがいる場合、パートナーに遺産を相続させることはできるのでしょうか?
 
宿谷弁護士:これについては、現状の法律を前提にすると「相続という形では無理です」と答えざるを得ないですね。
もっとも、相続という形にこだわらなければ、財産を内縁のパートナーにわたすことは可能です。
 
ーたとえば、どんな方法が考えられるでしょうか?
 
宿谷弁護士:遺贈をする、生前贈与をする、あとは信託や生命保険を利用するといったところでしょうか。
 
ーそれぞれ、どんな内容なのでしょうか?
 
宿谷弁護士:遺贈と生前贈与はひとことでまとめると、財産をあげるということです。
遺言で贈与する場合は遺贈、本人が生きているうちに贈与契約を結んで財産をあげる場合が生前贈与になります。
 
一方、信託は、財産を信頼できる人に預けて、その収益を特定の人に受け取ってもらうというイメージですね。
信託契約で自分の財産の所有権を誰かの手元に移した上で管理してもらい、その財産から生じる利益は特定の受益者が受け取れるようにすると。
 
ー贈与に比べると、若干仕組みが複雑ですね……。
 
宿谷弁護士:そうですね。
ただ、信託では、自分の死後、次の受益者は内縁の奥さん、内縁の奥さんが亡くなった場合には、自分の孫を受益者として指定するといったように、財産の行く先を柔軟に決められるという特徴があるんですよ。
だから、「内縁の奥さんに財産をあげたいけど、最終的には自分の孫や実子にも残せるようにしたい」というケースだとメリットがあるかもしれません。
 
そして、生命保険ですね。
これはイメージしやすいと思うんですが、自分の生命保険の受取人を内縁のパートナーにしておけばOKです。
 
ーいずれにしても、本人が亡くなる前に準備しておかなければならないというイメージでしょうか。
 
宿谷弁護士:おっしゃるとおりですね。
だからこそ内縁のパートナーがいる方の場合は生前対策が特に重要です。
お子様がいる場合などは遺留分の問題が発生するので、そちらも考えた上で対策を立てる必要があるでしょう。
 
ー万が一、遺言などの相続対策をしないまま本人が亡くなってしまった場合は……。
 
誰も相続人がいない場合は、特別縁故者の申立てをすれば、「特別縁故者」として財産を受け取れる可能性があります。
ただ、相続人がいる場合、内縁のパートナーの立場は厳しいですね。
主導権が法定相続人に移ってしまいますので。
 
ーなるほど……。
最悪、何ももらえずに終わってしまう可能性もあるわけですね。
 
宿谷弁護士:残念ながら、そういう可能性もあります。
相続人全員が相続放棄をしてくれれば、特別縁故者の申立てで何とかできる場合もあるんですけどね。
 
―たしか相続人全員が相続放棄をすると、相続人がいないのと同じ扱いになりますよね。
 
宿谷弁護士:そうです。
私も実際、被相続人に内縁の奥さんがいた事案で、結局法定相続人が全員相続放棄してくれてホッとした……ということがありました。
ただ、相続放棄って、相続人の自由意思で行うものですから、無理強いはできないんですよ。
だから、一応、弁護士としては相続人の方と話し合いはするんですけど、こちらからは放棄をお願いするのも難しい。
弁護士が「放棄してくれませんか?」と言ってしまうことで、心理的なプレッシャーを与えかねませんから。
内縁の奥さん側の弁護士としては、かなり気を遣いましたね。
 
ーあくまで、相続人の自発的な意思で放棄してもらわないといけないと。
難しい問題ですね。
 
宿谷弁護士:特に、相続人の人数が多いようなケースだと、かなり大変だと思います。
 
ー他に、特別縁故者の申立てを行うにあたってのハードルはありますか。
 
宿谷弁護士:そうですね。
まず費用面の問題がありますね。
申立ての段階で弁護士費用がかかってくるというのもありますし、家庭裁判所で相続財産清算人を選任するための費用もかかります。
相続財産清算人というのは相続財産の管理や精算を担当する人で、「誰も相続人がいない」という場合はこの人がいないと相続の手続きが進められません。
 
ー内縁のパートナーが相続財産の管理をするというわけにはいかないんですね。
 
宿谷弁護士:はい。
いったん相続財産清算人に財産を預けてから、改めて特別縁故者の申立てを行うことになります。
あとは、その申立てが家庭裁判所で認められるかどうかという話になるのですが、この手続きでも相続財産清算人の意見が裁判所の判断資料として使われるんですね。
 
ここで注意しなければならないのは、必ずしも相続財産清算人は内縁のパートナーの味方とは限らないということです。
相続財産管理人の仕事は相続財産を適正に管理することなので、財産の管理状況などによっては「これはどういうことなんですか?」とツッコミが入ることもあるんですよ。
 
ーなるほど……。
相続財産清算人の心証も大事ということですか。
印象を悪くしてしまうと、いろんな意味で厳しそうですね。
 
宿谷弁護士:基本的には、きちんとされていればそんなに心配いらないと思いますが……。
そういう意味での難しさもあるのは確かです。
 

内縁関係の証明に苦労する場合も

宿谷弁護士:法律婚をしていないパートナーに遺産をあげたいとなった場合、何よりも大切なのは生前対策です。
遺言を書いたり生前贈与したりしておけば、確実に財産を残すことができますから。
生前対策をしないまま、となると、先ほど紹介したように特別縁故者制度を使うことになりますけど、その場合は自分が「特別縁故者だ」ということを立証しないといけません。
 
ーそうなると、明らかに面倒ですね……。
 
宿谷弁護士:そうです。
たとえば、事実婚の関係にあるのであれば、まず事実婚であるということを証明しなければなりません。
 
ー内縁の配偶者だと認めてもらえないと、特別縁故者にすらなれない可能性があるということですか。
 
宿谷弁護士:そういうことになります。
当事者にとっては「だって一緒に住んでいるんだから、事実婚でしょ。
わざわざ証明なんかいるの?」と思われるかもしれませんが、極端な話、山奥で2人きりでひっそり暮らしていましたというケースだと、事実婚だということを証明できる人が誰もいないということにもなりかねません。
となると、「そもそも、本当に事実婚だったんですか」と言われてしまう可能性があります。
 
ーたしかに……法律婚と違って、事実婚って証明が難しいですよね。
盲点でした……。
 
宿谷弁護士:個人的には、特に事実婚ということを隠したいということでなければ、世帯変更届を出して住民票に事実婚であることを反映させることをおすすめしたいです。
そうすれば住民票に「妻(未届)」「夫(未届)」といった記載がされますので、「この二人は事実婚なんだな」ということを示す重要な証拠になります。
 
ー住民票に記載していない場合はどうすればいいでしょうか?
 
宿谷弁護士:これは、一緒に写っている写真であるとか、お互いのスマホの中に残っているデータといった個別の証拠を積み上げて「事実婚であること」を証明するしかないと思います。
 

内縁のパートナーがいる場合は早めに弁護士に相談を

ー最後に、内縁のパートナーがいる方に向けて、メッセージをお願いします。
 
宿谷弁護士:日本の場合、お金や死について話すことを避けるような文化があるように思います。
ただ、相続の場面においては、「争族」と言われるように、いくら仲のいい家族でも、「うちは大丈夫」と思っていても争いになってしまうものです。
ひとたび争いになれば、相続が原因で簡単にそれまで培ってきた関係が破壊されてしまいます。
 
こうした相続の失敗を避けるためには、やはりご本人の事前の準備が重要です。
特に、内縁のパートナーがいる方の場合は、そもそも遺言などがなければパートナーに財産を残すことはできません。
さらに、法定相続人との関係をどうするかといった問題もあります。
ご本人が何も対策をされていないとトラブルになりやすいので、できればご本人が元気なうちに、弁護士に相談していただくのがベストだと思います。

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