他の相続人が親の遺産を使い込んだ!?財産の使い込みが疑われる場合の対処法とは

代表弁護士 田中 克憲 (たなか かつのり)

相続が起きた後になって、「兄弟が親の遺産を使い込んでいるかもしれない」と弁護士のもとに相談に来られる方は珍しくありません。
 
特に親と同居していた子どもや財産を管理していた子どもと、それ以外の子どもとの間で対立が起き、トラブルに発展するケースが多い印象です。
 
「他の相続人が親の財産を使い込んだ」という疑いがある場合、どのように対処するのが正解なのでしょうか。
 
今回は具体的な事例をベースに、遺産の使い込みが疑われるケースの対処法について考えてみたいと思います。
 

事例

私は2人兄妹の妹で、兄がいます。
兄は自分の家族とともに実家(持ち家)で母親と同居していましたが、母親は数年前に認知症になり施設に入所しました。
なお、父親は10年前に亡くなっています。
 
この間、母親が遺言を遺さずに亡くなったのですが、兄に「実家は長男だし、俺がもらう。
あとの預貯金500万円はきれいに半分にしよう」と言われました。
 
さすがに兄は家族と一緒に暮らしている家を取り上げるつもりはないのですが、マイホームは建物と土地合わせて数千万円の価値はあると思います。
兄の提案は到底受け入れがたいです。
 
また、両親は共働きの公務員で特に贅沢な暮らしをしていたわけでもなく、マイホーム以外の財産が預貯金500万円だけというのは信じられません。
 
同居しているのをいいことに使い込んでいるのではないか、財産を隠していると疑っているのですが、どうすればよいでしょうか。
生前両親は兄をかなり優遇していたので、相続だけはできるだけ平等にしてほしいと望んでいます。
 

Q:まずはどのように対処するべきか?

A:この場合、兄の言い分は通りません。
相談者としては法定相続分相当額の財産をもらえるように主張するべきです。
まずは法定相続分を確保した上で、使い込みが疑われる場合はその旨の立証も行いましょう。
 

兄の言い分は遺言書がない限り通らない

本件ケースでは、そもそも相談者の兄の言い分は通りません。
遺言がない場合は法定相続となるからです。
本件では相続人が子ども2人ですので、兄と相談者で1/2ずつ相続することになります。
 
仮に遺言があったとしても、相続財産の総額や不動産の価格によっては遺留分の問題が出てくる可能性があります。
 
妹は被相続人にとっては1/2×1/3=1/6の遺留分があります。
「兄に全部あげる」という遺言があったとしても、最低限遺留分は確保できます。
相続財産に占める不動産の比重が高い場合には、「不動産の差額分を現金でください」と主張することも可能でしょう。
 
今回の件であれば、マイホームに相当する額は金銭で払ってもらう(いわゆる価格賠償といいます)という方法もありますので、マイホームを兄にあげたとしても法定相続分相当額を主張することは可能です。
 
法定相続になった場合であっても、1人の相続人が無理な主張をするというのは比較的ありがちなパターンではあります。
 
経験則上、最後に親の面倒を見ていた人、財産を把握している人間が「自分が多くもらいたい」と強く主張してトラブルになるケースが多いように思いますね。
 
強硬に自分の主張を貫こうとする人も少なくありませんので、一般的にこうしたケースでは話し合いでは解決するのは困難です。
 
「財産を多くもらいたい」と相手方が主張して譲らず、話し合いがまとまらないようであれば、早期解決を目指すという意味でもすぐに家庭裁判所で調停することをおすすめします。
 
実際、当事務所の弁護士も、すぐに調停に持ち込むようにしています。
話し合いがダメそうなら1回で不調にして調停を終わらせ、すぐに審判に持っていくこともあります。
 

財産隠しを調べることは可能か?

相談者は財産隠しを疑っているようですので、ここで財産の調査方法についても紹介します。
 
本人のメモや通帳履歴、証券口座、生命保険など思い当たるところを調べて、弁護士照会をかければある程度調べることは可能です。
 
今ある資料から精査していくことで財産の内容を調べることは可能ですので、相手方が財産を隠すのは難しいといえるでしょう。
 
なお、誰もわからない資産の存在が発覚した場合は、別途対応を考える必要があります。
 

使い込みが疑われる場合は?

金額の大小問わず使い込みを疑っているというケースは意外に多く、遺産分割で揉めている7割くらいはこのパターンだという印象です。
 
しかし、実際に「疑いがある」だけでは、いくら使い込みを主張しても裁判所は動いてくれません。
 
使い込みが疑われる場合は、①預貯金を本人以外が引き出したこと、②それが使い込まれたことの2点を証明しなければなりません。
 
まず、預貯金を誰が引き出したかを立証する必要があります。
 
具体的には、預貯金を本人以外の誰かが引き出したことを証明するために、ATMの防犯カメラ、実家近くのATMの番号から、母親自身がキャッシュカードを持って引き出していないことを証明しなければなりません。
 
本人が元気で判断能力もしっかりあり、自分でお金をおろせる可能性があるような場合には、その時点で使い込みと言い切るのは難しくなります。
 
合わせて、預貯金を引き出した人、本件では兄が引き出したお金を母親のために使っていないということを証明する必要があります。
 
極端な金額を引き出しているといった明らかに怪しい動きがあるケースはともかく、毎月50万円程度の引き出しで領収書があるような場合には立証は難しくなります。
 
また、施設に入っていたような場合、ある程度まとまった金額が出ていっても仕方がないようなところがあるので、こちらの言い分が認められるかはケースバイケースのところがあります。
 
相手が認めた場合を除けば、結構裁判所も厳しい判断をする印象がありますが、もちろん証拠がそろっていれば戦うことも可能です。
 
そのあたりの見極めも含め、まずはご相談いただければと思います。
 
弁護士に依頼した場合、法定相続分を主張して確実に取れるルートを使い込みと合わせて主張し、最低限法定相続分はしっかり取ることを目指して戦います。
 

親の介護問題をめぐる対立も多い

なお、余談になりますが、親の介護をした人が「財産を多くほしい」と主張して、もめるケースも多いです。
実際問題、今の相続制度は遺言がない限り、親の面倒を見ていた相続人が報われにくいものになっています。
 
こうした現状を考えると、「介護を頑張ったので遺産は多くもらいたい」という方の気持ちは分からないでもありません。
 
口約束で遺産をあげる約束に法的な意味はないため、介護を頑張った方が遺産を多くもらうためには、あらかじめ親に遺言を書いておいてもらうのが確実です。
 
一方、遺言がなく法定相続になってしまった場合には、介護の寄与度に関係なく法定相続分で分けるか、寄与分を主張していくかしかありません。
 

弁護士からひとこと

相続トラブルの中でも、他の相続人の使い込み疑惑や介護をめぐる対立がもとでトラブルになる事案は多いものです。
 
こうした相続トラブルを防ぐためには、ふだんから親や他の家族と相続について話しておくこと、そして財産状況をきちんと調べておくことが大切です。
 
「さすがに直接的なことは訊きにくい」という方は、親にエンディングノートを渡すのもよいでしょう。
遺言よりも心理的なハードルが低いので、親にもお願いしやすいと思います。
 
相続争いの多くは事前の準備で解決できることも少なくありません。
もしなにか不安なこと、気になることがありましたら、まずはご相談いただければと思います。

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