家族信託とは? 遺言書の違いと家族信託でできることを弁護士に質問

代表弁護士 田中 克憲 (たなか かつのり)

最近では遺言書だけではなく、家族信託を活用して次世代に財産を受け継ぐ方が増加しているといいます。
しかし、家族信託で実現できることや、遺言との違いといった家族信託の詳しい内容についてはまだまだわからないことが多いかと思います。
 
そこで今回は当事務所の宿谷弁護士に、家族信託と遺言との違いや、家族信託で実現できること、また家族信託を検討している場合にやるべきことについて聞きました。
家族信託について詳しく知りたいとお考えの方はぜひ読み進めてください。
 

遺言と家族信託は何が違う?弁護士がわかりやすく解説

——遺言と家族信託の違いを教えてください。
宿谷弁護士:遺言は決まったことしかできません。
本人の希望を実現するというよりも決められた方式の中で、できることを選んでもらうものだと考えていただくとわかりやすいかと思います。
亡くなられたときに、ご自分の意思に従って相続させるツールの1つが遺言ですね。
 
一方で家族信託はカスタマイズの幅が広いため、ご本人が生きている間のことや、亡くなったあとのこと、さらに相続した子どもたちが亡くなったあとのことまでコントロールできます。
 
——具体的にはどのようなことができるのでしょうか。
宿谷弁護士:たとえばお父さんが、息子さんに土地を相続させて、息子さんが亡くなったときは、息子の子、お父さんからすれば孫に土地を引き継いでもらいたいという場合に、家族信託は役立ちます。
 
通常の遺言では、息子さんに土地を相続させることはできますが、息子さんにその土地を売らずに孫に相続させることまでは指定できません。
息子さんが「こんな土地要らない」と売ってしまえば、土地は失われてしまいますね。
 
一方で家族信託であれば、受益権を順次引き継ぐように指定すると、子、孫というように代々財産を引き継ぐことができるんです。
ただし信託財産は信託の開始から30年経過後に新たに受益権を取得した人が亡くなると、終了してしまいます。
孫よりもさらに下の世代まで財産を引き継ぐ場合には、孫の世代で再度組み直す必要があります。
 
——先ほど本人が「生きている間のこと」とおっしゃいましたが、具体的にはどんなときでしょうか。
宿谷弁護士:家族信託は、意思能力が失われたときにも発動できます。
意思能力というのは、自分が行った法律行為によって生じる権利や義務の変動を理解できる能力のことをいいます。
たとえば、認知症を発症してしまうとか、事故や病気で脳を損傷するといったときに、意思能力の有無が問題になります。
 
意思能力がない状態で行われた法律行為は無効です。
したがって、突然病気や事故で意思能力がなくなってしまうと、遺言を作ることも、誰かに財産を贈与することもできなくなってしまいます。
家族は不動産を売却したり、預貯金を引き出したりすることはできません。
 
たとえば、父親が個人で所有している不動産収入で家族(母親、長男、長女)が生活していたという場合、所有者である父親が認知症になってしまうと、家族が賃料収入を引き出すこともできず、また不動産の大規模な修繕もできず、家族の生活は困窮するでしょう。
不動産も大規模な修繕ができないため老朽化が進み、価値が低下してしまいます。
 
そういった状態をカバーできるのが家族信託です。
家族信託で本人の意思能力がなくなったときに、以下のように信託を組成しておけば、不動産賃料が途絶えることなく建物の管理も継続できます。
 

  • 委託者:父親
  • 受託者:長男
  • 受益者:父親
  • 信託財産:A町3番5号 リーセットビル

 
このようにしておくと父親が意思能力を失うと、長男が不動産を管理できるようになり、父親が賃料収入を受け取れるため、生活が破綻しません。
 

家族信託は初期費用が高い? 実際のところいくらかかる?

——家族信託は、遺言よりもカスタマイズ性が高く、生きている間もカバーできると聞くと弁護士さんの手間がかかりそうなイメージです。
家族信託をお願いする費用は遺言よりも高額ですか?
 
宿谷弁護士:一般的な事務所ですと遺言は10万円から15万円ほどで作成できるでしょう。
ところが家族信託を組成まで行うとなるとその金額では厳しいですね。
最初にかかるイニシャルコストは遺言よりも家族信託のほうが高いです。
具体的な費用は、個別のケースによって大きな幅があるので一概には言えません。
 
とはいえ家族信託は、後からかかるコストを抑えるように設計できますので、トータルコストは低くなるのかなと思います。
たとえば、相続させた子どもが亡くなって孫に相続させるとなったときの相続税まで考慮した設計にしておけば、お孫さんが相続するときに相続税で自分の財産を手放すリスクを低減できます。
 

家族信託を検討する場合、どうすれば?誰に依頼するのがベスト?

——家族信託を検討している場合、誰に相談すればよいでしょうか。
税理士や金融機関も家族信託について情報発信をしています。
宿谷弁護士:ポジショントークではと思われるかも知れませんが、私は家族信託に注力している弁護士に相談していただくのがよいと考えています。
たしかに弁護士は税金や資産運用の専門家ではありません。
しかし問題の切り分けが得意です。
「これは税務だから税理士」「これは法務だから弁護士」「不動産の登記は司法書士」という風に適切に判断した上で、適切な専門家に割り振りできます。
 
案件によっては弁護士が窓口を集約して、ワンストップで対応可能です。
複雑な案件は関係する専門家を集めてミーティングを開催することもできます。
 
——どの段階で弁護士に相談をすればよいですか?
宿谷弁護士:相続について少しでも気になって、どうすればよいのかなと考えた時ですね。
そもそも「自分の財産がどれくらいあって、どれを誰に引き継がせるのか」と具体的に考えられない方が多い傾向です。
ですので、皆様がお考えになるよりももっと前の段階でご相談いただければと思います。
弁護士は詳しくお話を伺った上で、
 
「それは家族信託ではなく、遺言で十分に対応できる」
「パッケージ化された家族信託ではなく、ご相談者様の希望をできるだけ反映した形のオーダーメイドの家族信託も実現可能」
「成年後見制度も検討したほうがいい」
 
といったアドバイスができます。
 

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