相続に介入してくる姉の相続者をどうにかしたい~相続をめぐる兄弟トラブル

代表弁護士 田中 克憲 (たなか かつのり)

親が亡くなった後、相続をめぐって他の兄弟姉妹やその配偶者とトラブルになることは珍しくありません。
 
今回は、口約束で遺産をもらう約束を親としていたところに、兄弟姉妹の配偶者が介入してきてトラブルになった事例をご紹介します。
 

事例

私(A)は3人兄弟の末っ子です。
上に姉B・Cがいます。
姉2人は既婚者、私はバツイチで、全員に子どもがいます。
 
これまで私は両親と実家で同居し、両親の面倒も見てきました。
父親には「姉2人には生前贈与をしてあるから、自分の遺産は全部長男であるAにあげる」と言われていました。
ところが、父親が亡くなると、姉Bが態度を変え、「Aへの相続は認めない」と言い出しました。
どうやらBの夫であるDが入れ知恵をしたらしく、また母が私への相続を認めるように頼んでもDが邪魔をしてきます。
 
そうした状態が1年以上続き、今度は母親が亡くなりました。
①私は、父親の希望通り遺産を相続することができるのでしょうか?
また、②突然家に押しかけて相続の放棄を迫るなど嫌がらせをしてくるDを訴えることはできるでしょうか。
 
なお、姉B・Cは自宅を建てる時に、家の頭金としてそれぞれ1000万円ずつもらったようです。
また、相続財産は家・土地(時価3000万円相当)、預貯金1000万円です。
遺言はありません。
 

Q:このケースにおいて相談者の希望は叶えられるか?

A:①の「父親の希望通り遺産を相続できるのか」については、遺言がない以上、無理だと思われます。
 
②の「嫌がらせをしてくるDを訴えられるのか」については、民法の強迫に当たらない限り、難しいでしょう。
 

知っておきたい遺言がない場合の相続の基本

口約束で遺産を多くあげる約束をしても法的には意味がありません。
 
遺言がなければ、遺産の分け方に対する故人の意思はなかったものとして相続が行われることになります。
 
遺言がない場合、相続は法定相続にしたがって行われるのが原則です。
 
法定相続では、子どもの相続分は平等になります。
 
今回のケースでは子ども1人あたりの相続分は各3分の1となりますので、相続財産が4000万円であれば各自の相続分は次のようになります。
 

  • A:1,333万円
  • B:1,333万円
  • C:1,333万円

 
また、Bさん・Cさんへの生前贈与が認められた場合は、生前贈与された各1,000万円、合計2,000万円を相続財産に加え(持ち戻し)、その金額をもとに相続分を算定します。
 
生前贈与が認められた場合、相続財産が6000万円となりますので、各自の具体的な相続分は次のようになります。
 

  • A:2,000万円
  • B:1,000万円
  • C:1,000万円

 

相続人の配偶者が相続に口を出すことは許されるか

相続人になるのは、亡くなった人の配偶者、子ども、親などの直系尊属(子どもがいない場合)、兄弟姉妹(直系尊属もいない場合)です。
 
配偶者は相続人ではないので、本来であれば相続に口を出す権利はありません。
 
ただ、実際は配偶者が相続に口を出して揉めるケースはしばしば見られます。
 

特定の子どもに財産を多く相続させたい場合の対処法

相談者の親御さんのように、「お世話になったから」「先祖伝来の土地をあげたいから」といった理由で特定の子どもに遺産を多く相続させたい、と考えられている方は少なくありません。
 
しかし、こうした希望を叶えるためには、遺言が必須となります。
 
もちろん相続人同士の話し合いで全員が納得できれば、特定の個人に遺産を全部相続させるようなことも可能ですが、そのように話し合いがまとまるケースばかりとは限りません。
 
「法定相続分が欲しい」という相続人がいる場合には、少なくともその人の取り分を減らすことはできなくなります。
 
特定の子どもに財産を多く残したいという希望がある場合は、遺言を書く、生命保険を活用するといった生前対策が必要になります。
 
今回のケースでも、相談者の親御さんが上記のような生前対策を取っていれば、相続がスムーズに行く可能性が高かったのではないかと思われます。
 

遺言

口約束で遺産をあげる約束は法律的には意味を持ちません。
 
遺産の配分について希望があるのであれば、遺言を書くべきです。
 
一般的によく見られる遺言には自筆証書遺言(本人が手書きして作成)と公正証書遺言(公証役場で公証人が作成)がありますが、そのうち偽造、形式不備などのリスクが少ないのは公証役場で作成する公正証書遺言の方です。
 
費用と手間はかかるものの、有効な遺言を残せる可能性が高くなります。
確実に、ということであれば、こちらを選ぶのがいいかと思います。
 
ただし遺言があっても、「特定の相続人に遺産を全部あげる」ということはできない点には注意が必要かもしれません。
 
配偶者や子ども、直系尊属が相続人になっている場合は、遺留分といって、最低限の遺産を受け取る権利が認められているからです。
 
遺留分を侵害するような遺言があった場合、財産を多くもらった人は他の相続人から遺留分を請求される可能性があります。
 
今回のケースでいえば、子ども1人あたり遺留分が1/6あります。
 
たとえ相談者に遺産を全部相続させる旨の遺言があったとしても、Bさん・Cさんが受け取った生前贈与の分より遺留分の方が多ければ、その分の差額を請求される可能性があります。
 
もし生前贈与が認定されなければ、遺留分をまるまる請求できることになりますので、より多額の請求を受けることになるでしょう。
 

その他考えられる対策

その他特定の子どもに多く財産を残す方法としては、預貯金の生前贈与、生命保険といった方法が考えられます。
 
一方、不動産の場合は事前の対策はやりにくいかもしれません。
不動産をそのまま贈与してしまうと、相続財産の総額によっては遺留分侵害の問題が起きうるからです。
これらのトラブルを避けるために売ってお金に変えるという方法も考えられますが、マイホームのように売りにくい不動産もあります。
 
生前対策で何ができるかは各家庭の状況によってケースバイケースというところもありますので、もしわからないこと、不安なことがありましたら、一度ご相談いただければと思います。
 

他の相続人やその配偶者からの嫌がらせがひどい場合の対処法

今回のケースでは、相談者に対して姉Bさんの配偶者であるDさんからの嫌がらせがあるとのことでしたので、相続をめぐって嫌がらせを受けた場合の対処法についても、もう少し詳しく解説しておきます。
 
まず、法的手段を取れるかどうかは、嫌がらせの程度によるとしか言いようがありません。
 
嫌がらせの程度がそれほどではない場合は法的措置が取りにくいため、本人が毅然と対処するしかないと思われます。
 
一方、大量の出前が届けられる、無言電話が何度もかかってくるといったように嫌がらせの程度がひどい場合は、民法の「強迫」などにあたる可能性があり、相手の法的な責任を追求できることがあります。
 
法的手段を取る場合に大切なのは、「どの程度の嫌がらせがあるかどうか」をきちんと証拠として残しておくことです。
 
嫌がらせを受けた場合は、電話の頻度を記録する、会話の内容を録音する、写真を取るといったように相手の嫌がらせの証拠を集めておきましょう。
 
また、相続にあたって嫌がらせをしてくるような困った親族がいる場合、自分だけで対処するには限界があります。
 
このような場合には弁護士のような第三者を入れることも検討しましょう。
 
弁護士に相談・依頼した場合、「文句を言うなら、弁護士に連絡してください」といったように弁護士が前面に出て対応することになります。
自分で対応せずに済みますので、精神的なダメージは減らせるのではないでしょうか。
 
また、嫌がらせが犯罪にあたるような極端なケースは警察に告訴することも検討しましょう。
 
嫌がらせをしてくるような親族がいる場合、1人で対応してしまうと事態がエスカレートしてしまうおそれもあります。
第三者も入れて、毅然と対処することが重要です。
 

弁護士からひとこと

財産をもらう口約束が原因でトラブルになった場合は、法律的に相談者さんの希望を叶える形で解決するのは難しいといえます。
 
親が「お前に多く財産を残したい」と言ってくれているのであれば、きちんと遺言を書いてもらうようにしましょう。
 
また、実際に親族とトラブルになった後で1人で対処するのは難しいです。
弁護士がいることで防げるトラブルもありますので、早めにご相談いただければと思います。

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