遺言には相続分の指定以外の効力がある|遺言書を残した方がいい場合

代表弁護士 田中 克憲 (たなか かつのり)

自分の死後、誰にどの財産を譲るか指定することが遺言の主な役割ですが、相続人ではない人物に財産を譲りたい場合や、相続人の権利をはく奪したい場合等を含め、その効力は非常に強いものとなります。

ここでは、遺言が持つ5つの代表的な効力とともに、遺言を残した方が良い場合について解説します。

相続権を持たない第三者に財産を譲ることができる

内縁の妻や息子の嫁等、自分に尽くしてくれたにも関わらず相続権を持たない第三者に対し、遺言をもって財産を贈与することができます。

民法第964条では、故人が自分の財産を遺贈することを可能としており、故人が遺言で遺贈の意思を示すだけで成立するとされています。実際にその財産を受け取るか断るかは、遺贈された人物の判断に委ねられています。

法定相続割合によらない遺産の分割方法を指定できる

民法第908条では、遺言をもって遺産分割方法を指定できるとしています。

例えば、遺産が3,000万円で法定相続人が配偶者と子2人であった時、法定相続割合とその金額は以下の通りとなります。

  • 妻の分は3,000万円×2分の1=1,500万円
  • 子Aの分は3,000万円×4分の1=750万円
  • 子Bの分は3,000万円×4分の1=750万円

しかし、遺言で妻の相続分を4分の1とし、子Aは6分の1、子Bは8分の1とした場合、指定相続割合とその金額は以下の通りとなります。

  • 妻の分は3000万円×4分の1=750万円
  • 子Aの分は3000万円×6分の1=500万円
  • 子Bの分は3000万円×8分の1=375万円

残った財産を相続人以外の人に遺贈することも可能です。

ただし、相続割合を指定する時は遺留分を侵害しないように注意する必要があります。

また、遺言により遺産の分割方法決定権を第三者に委ねることも可能であり、相続の開始から5年以内の遺産分割禁止を指定することもできます。

生前にできた隠し子を遺言で認知できる

内縁の妻等との間にできた隠し子を、遺言で認知することができます。これにより隠し子であった子は正式に故人の子となり、正当な相続分を得ることになります。

また、離婚や死別等により先妻・後妻との間にそれぞれ子をもうけている場合は、相続時のトラブルに発展しやすいため、遺言で遺産分割方法をしっかりと指定しておくことが大切です。

生前の故人に対し著しい非行や虐待を行った相続人を廃除できる

生前の故人に対し、重大な虐待や侮辱行為、または非行等があった場合、遺言によりその人物の相続権をはく奪することができます。

これは民法第893条で認められている遺言効力の1つで、相続人の廃除と言います。虐待や重大な侮辱行為、あるいは深刻な非行行為があった場合、当該人物を指定し廃除する意思が示された遺言書に基づき、遺言執行者が家庭裁判所に相続人廃除の申し立てを行います。故人の生存中であれば、自ら家庭裁判所に対し相続廃除の申請を行って審判を得ます。

相続人の廃除まで行いたくない場合は、当該人物には遺留分だけを与え、残る遺産は全て他の相続人で分割するよう指定する方法もあります。

遺言を確実に実現してくれる遺言執行者の指定ができる

遺言執行者とは、遺言内容を確実に実現する役割を担う人物のことを言います。財産調査後の目録作成を行ったり、不動産名義変更手続きを行ったりする等、遺産分割で必要な手続きを行うための一切の権限を持っています。

被相続人である故人としては、遺言の存在を確認してもらえるか、遺言が正しく実現されるかという点は常に懸念事項となり得ます。遺言執行者を指定しておけば、自分が亡くなった後に遺言の存在を明らかにし、遺言内容に従って粛々と手続きを進めてもらえるので、遺言者としては非常に安心できる存在となります。

遺言執行者は必ず指定しなければいけないわけではありませんが、自分の意思を確実に反映させるという意味で、非常に大切な役割を担っていると考えられます。また、一部の手続きは遺言執行者を選任する必要もありますので、遺言書を残すのであれば遺言執行者を指定するほうが良いでしょう。

遺言書作成から関係構築してきた弁護士等に依頼することが一般的です。

遺言書を残した方がいい場合について

遺言書を残す意味は、生前の自分と深く関わりを持ってくれた人物に対する感謝や愛情の表明であると言えます。これを財産分割という形で表し、故人の意思として伝えるのです。

子どもがいない夫婦の場合は、長年連れ添ってくれた配偶者により多く財産を残したいとか、自分の介護に献身的に尽くしてくれた子や子の嫁等にもできるだけ多く相続させたいと考えるのは自然なことです。

また、相続人が皆無である場合は財産が国庫に帰すことになりますが、遺言を通して第三者や団体等に財産を遺贈し、自分の財産を役立てることもできるのです。

このように、遺言書の作成においては、当人の家族環境や人間関係等の背景事情をよく知る必要があるため、当事務所では依頼者の話をじっくりと丁寧に伺うことを重要視し「オーダーメイド」の遺言書作成の実現を可能にしています。

相続人と被相続人との関係を壊さず円満な遺産分割ができるように、遺言書作成で少しでも不安や疑問を抱いたら、ぜひご連絡・ご来所していただきたいと思います。相続に至る前段階の遺言書作成から、ご要望により遺言執行者の受諾に至るまで、相続や遺言に豊富な経験を持つ当事務所がトータルサポート致します。

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