認知症のおじと従兄の養子縁組の効力を争いたい

代表弁護士 田中 克憲 (たなか かつのり)

相続対策として行われることも多い養子縁組ですが、相続発生後に養子と他の親族との間でトラブルになるケースも少なくありません。
 
今回は、認知症の被相続人との養子縁組が原因でトラブルになった事例を紹介します。
 

事例

私(A)は2人兄妹の兄です。
両親はすでに亡くなっており、妹Bがいます。
さて、私たち兄妹には、母方に独身のおじCがいます。
Bの姉にあたる私たちの母、そして弟にあたるDは亡くなっています。
この間、Cが遺言を残さないまま亡くなったのですが、その際にDの子どもであるEがCが亡くなる直前にCと養子縁組をしていたことがわかりました。
 
Cは資産家だったのですが、晩年は認知症を患っていた可能性があり、Eと養子縁組をしたのがCの意思によるものだったのかわかりません。
 
私と妹は大好きだったおじを心配し、たびたび見舞いに行ったり、入院の手続きを行ったりとサポートを行ってきました。
一方、Eはろくに伯父のところに顔も見せていないと思います。
それだけに私達はEの行いに憤慨しており、今回Eのところに遺産がすべていくなんて納得いきません。
CとEとの養子縁組の無効を争うことはできないのでしょうか?
 
1 図で書くべき
2 ひらがなの「おじ」に統一すべき ※叔父・伯父
 

Q:養子縁組の無効を争うことはできるか?

A:養子縁組をするためには、意思能力があることが必要なので、養子縁組当時、Cに意思能力がないことを立証できれば、養子縁組の無効を争うことができます。
 

相談者が裁判で養子縁組の無効を争うことは可能

養子縁組の無効を裁判で争う際にまず問題になるのが、養子縁組の当事者以外が訴えを提起してもいいのかということです。
 
養子縁組無効の訴えを提起できる人は、養子縁組の当事者、そして「自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者」です。
 
では、今回の相談者さんは、「自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者」にあたるのでしょうか。
 
養子は実子同様に扱われますので、相続では相続人になります。
 
被相続人に子どもがいる場合、被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合はおいめい)は相続人ではなくなってしまうため、今回のケースでCさんとEさんとの養子縁組が有効かどうかは、相談者さんにとっては大問題であることは間違いありません。
 
養子縁組が有効だと相続人から外れてしまうことから、相談者さんには今回の養子縁組について「自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者」といえます。
 
したがって相談者さんが訴えを提起すること自体は問題なくできます。
 

縁組当時に意思能力がなかったかどうかを立証できるかがポイントに

裁判で縁組の無効を争うためには、本当の親子関係を築くという意思、すなわち縁組意思がなかったことを証明しなければなりません。
 
実際に縁組があったかどうかの判断は総合評価で決まるため、縁組の無効を主張するためにはできるだけこちらに有利な事情を揃える必要があります。
 
もっとも本当に縁組意思があったかどうかの判断はなかなか難しいというのが実情です。
 
署名が代筆、三文判を使っているといったように「届出の書類があやしいから無効」ということにはなりません。
 
親子としての実態がないことを理由に縁組意思がないと主張することも考えられますが、特に事情がない限りは争い方としては現実的ではないでしょう。
 
実際には、「養子縁組をした本人に、養子縁組当時判断能力がなかったこと」を理由に、養子縁組が無効である旨を主張していくことになるかと思います。
 
有効な養子縁組をするためには、当事者に意思能力(自分の行っている行為の意味がわかる程度の判断能力)が必要です。
 
判断能力が低下した状態で行われた養子縁組は無効になる可能性が高いので、それを理由に養子縁組の無効を主張するのが現実的だと思われます。
 
ただ、判断能力が低下していることを裁判所に認めてもらうためには、証拠が必要です。
 
実際の裁判では、病院の診断書、入院していた病院のカルテなどの医療記録といった証拠をもとに、意思能力がなかったことを立証していくことになります。
 

養子縁組をめぐって相続トラブルになるケースは少なくない

今回のケースはおいが養子になるケースでしたが、実際には相続人の配偶者や実子、被相続人にとっての連れ子(配偶者が相続人の場合)を養子にして実質的な遺産の取り分を増やしたり、相続税対策をしたりするパターンもよく見られます。
 
こうした養子縁組でトラブルになりやすいのは、今回のケースのように被相続人に意思能力がないのに養子縁組が行われたパターンや相続税対策として子どもの1人に押し切られてしまったパターンです。
 
みんなで話し合って納得できればいいのですが、黙って養子縁組をすると相続の時に他の相続人と争いになります。
 
特に多いのは、配偶者が養子になり、それで他の兄弟が怒るパターンですね。
 
また、「実子の配偶者と養子縁組をした後、実子と離婚してしまった」というパターンも問題になりやすいです。
 
サザエさんで言うと、マスオさんが波平さん・フネさんと養子縁組した後で、サザエさんと離婚したようなパターンです。
 
もっとも離婚の場合、離婚後は養子と養親が没交渉になることが多いです。
そのため「親子としての実態がなくなった」ということで、離縁が認められやすくなるケースも多いと思われます。
 
今は高齢化社会で認知症になる方も増え、また離婚・再婚する人も増えて家族の形も多様化しています。
今後、こうした社会の変化によって、こうした養子と相続をめぐるトラブルはますます増えてくるかもしれません。
 

養子縁組をした側が縁組後に後悔した場合は?

「相続対策で養子縁組をしたものの、縁組したことを後悔している」というパターンもあると思います。
 
こうしたケースで、養子縁組を解消することはできるのでしょうか。
 
この場合、弁護士が介入するのであれば、縁組したときの事情を聞いて、離縁できるかどうかを判断することになります。
 
例えば、別居期間が長い、ずっと離れている、連絡もとっていないといった客観的な事実は、離縁にはプラスの事情として働きます。
 
このあたりの事情は、相談者と縁組した人との現在の状況をヒアリングをして判断していくことになるでしょう。
 
しかし、離縁は一応法律上は可能になっているものの、そう簡単に認めてもらえるものではありません。
養子から養親への暴力といった特別な事情がない限り、裁判で離縁を認めてもらうのは難しいといえるでしょう。
 
もちろん当事者同士で話し合って手切れ金を払って離縁…という方法も考えられるでしょうが、養子が納得しないという場合は離縁できない可能性が高いです。
 
特に相続では財産が絡むため、簡単に離縁に応じる養子は多くはないと思われます。
 
したがって、一度養子縁組してしまった場合は、一度は相続人として扱った上で、相続対策を考えるのが現実的といえるでしょう。
 
そもそも裁判で離縁する場合、離縁するだけの客観的な状況を作った上で離縁訴訟をする必要がありますので、裁判をするまでのハードルが高めです。
 
実際には相続対策を考えつつ、離縁できるだけの客観的な状況を積み上げていく……というのが現実的な落とし所ではないかと思います。
 

弁護士からひとこと

一度養子縁組をしてしまうと離縁は非常に難しいです。
養子と離縁することは、結婚して離婚するよりハードルが高いのです。
 
離婚は別居期間を積み上げればどうにかなるところがありますが、特に相続のために養子縁組をするような場合はそうはいきません。
 
本人が「離縁したい」といっても、本人が亡くなるまでに離縁にいたるまでの事実を積み上げるのは現実的に難しいものです。
離縁にプラスに働く事実が蓄積されていたとしても、離縁訴訟中に本人が亡くなってしまう可能性も十分に考えられます。
その場合、養子が相続人になってしまいます。
 
相続目的で養子縁組が行われるケースは珍しくありませんが、安易な養子縁組はトラブルの原因になります。
 
もし養子縁組をする場合は慎重に判断することをおすすめします。

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