事業承継を行わずに経営者が亡くなった場合に降りかかる問題とは?生前にやるべきことも解説【弁護士に聞く】
「令和3年経済センサス-活動調査に関する結果報告」によると兵庫県で事業を営む事業所は19万9966事業所で、全国8位です。
上記の事業所のうち従業員数が5人未満の中小企業が全体の56.6%を占めています。
全国的に経営者の高齢化が進んでおり、2020年の経営者の年齢のピークは60〜70代です。
中小企業を営む経営者さまにとっては見過ごせない問題です。
事業を円滑に、次世代に引き継ぐためには、万が一の事態が生じる前の事業承継が欠かせません。
そこで今回は当事務所の宿谷弁護士に、事業承継を行わずに経営者が亡くなったときに生じる問題や、生前にやっておくべきことを聞きました。
引用:https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk11/documents/sokuhougaiyou1.pdf、know_business_succession.html
事業承継を進めずに、経営者が死亡!残された会社と家族はどうなる?
——事業承継にまったく手をつけないまま持株比率100%のオーナー経営者が亡くなると、どのような困ったことがおきますか?
■後継者が決まっている場合
宿谷弁護士:まず引き継ぐべき人がすでに決まっているパターンで生じる困ったことについて考えてみましょう。
この場合は、単純に相続問題を乗り越えなければなりません。
亡くなった経営者は、会社の株を100%所有しているので、遺言等で指定していなければ、相続人がその株式を引き継ぐことになります。
たとえば以下のようなケースです。
父親が死亡、長男は会社を継ぐつもりで父親とともに働いていた。
次男はゆくゆくは専務になると父親や周囲は捉えていて、本人も拒否していなかった。
被相続人(亡くなった人):父親。会社経営者で持株比率100%
相続人:母親、長男、次男
相続財産:自宅の建物と土地(評価額5,000万円)、父親が代表を務めている会社の株式(評価額1億円)、現預貯金3,000万円
このケースでは、一見すると父親が急に亡くなっても「長男が代表になって次男が専務として長男を支えながら、2人で協力して会社を支えていく」という将来が目に浮かびます。
ところがまずは相続問題が発生します。
遺言書がないわけですから上記の相続財産の総額1億8,000万円を母親と長男、次男で分割しなければなりません。
遺産分割は「法定相続分」といって民法で規定された分割割合に応じて分割する方法と、相続人の話し合いによって分割する方法があります。
法定相続分に従って相続した場合のそれぞれの相続金額は以下の通りです。
- 母親:9,000万円
- 長男:4,500万円
- 次男:4,500万円
——長男が父親と同じように経営権を握ろうと思ったら、会社の株式はすべて欲しいところですが、法定相続分で分割すると長男は会社の株式のすべてを相続することはできないんですね。
宿谷弁護士:はい。長男が会社の株式を100%保有したいとなれば、母親と次男の了承が必要です。
遺産分割協議は「相続人全員の同意」がなければまとまりません。
次男が、「長男が会社の経営権を引き継ぐこと」に反対した場合、相続問題の解決だけでも苦労するでしょう。
「父親の生前は、次男は何も言わなかったが、実は長男が会社を引き継ぐことに反対していた」というケースは珍しくありません。
こうやって相続で揉めているとあっという間に時間が過ぎてしまって会社の経営が滞ってしまい、最終的に倒産を余儀なくされることもあります。
■後継者が決まっていない状態
——では後継者がいない場合はどのような問題が生じますか?
宿谷弁護士:後継者が決まっていない場合は、会社の人たちが頑張ってくれます。
求心力のある取締役がいれば、その人が引き継ぎますというパターンがありますね。
ただしこの場合でも「相続問題」は避けて通れません。
父親が死亡。
長男、次男ともに会社勤めで会社を継ぐつもりはない。
母親も会社の経営には関わったことがない。
被相続人(亡くなった人):父親。会社経営者で持株比率100%
相続人:母親、長男、次男
相続財産:自宅の建物と土地(評価額5,000万円)、父親が代表を務めている会社の株式(評価額1億円)、現預貯金3,000万円
このケースですと、相続人は会社の経営には携わっていません。
ところが、会社の株式は相続人の一部、もしくは全員が分割して所有することになります。
内情を知らない相続人たちが、会社の経営に口を挟んだり、気に入らない経営陣を排除したりといった、会社の経営の根幹を揺るがすようなことをするかもしれません。
——わずかな従業員と代表で運営している規模が小さい会社の場合は、事業承継を行わないことでどのような事態になりますか?
宿谷弁護士:社長や代表がひとりで営業から経理までやっていて、取引先や売掛・買掛はすべて代表の頭の中といったケースは大変なことになります。
代表者が亡くなってしまうと、何もかもわからない状態になり、あっという間に会社が立ちゆかなくなります。
どうすれば万が一のときも円滑に事業を引き継げる?
——経営者は自分が亡くなったあとの事業承継に備えて、何をしておけばよいですか?
宿谷弁護士:一番大切なことは、「この会社をどうしたいのか」と考えておくことです。
50代60代はまだまだ元気で経営に関われるため、なかなか先のことを考えられないかと思います。
ですが次世代への事業承継は一朝一夕ではできません。
10年、20年後を考えて、後継者探しや後継者の育成に着手しておく必要があります。
「会社さえ残ればよい」とお考えの場合は、M&Aを検討されるとよいのではないでしょうか。
——後継者が決まっている場合はどうすればよいでしょうか。
宿谷弁護士:会社の経営権の問題と相続の問題をそれぞれクリアにしておく必要があります。
相続の問題でいえば、代表が生きているうちに株式を譲渡しておく、もしくは遺言に後継者に株式を相続・遺贈させると明記しておく家族信託を活用するといった手続きをしておけば、会社の株式が経営者以外の手に渡ることを防げます。
——事業承継はどのタイミングで相談すべきでしょうか。
宿谷弁護士:いつなにをやったらいいのかわからない段階で相談して欲しいです。
正直なところ、皆様が弁護士に相談するタイミングはかなり遅いんです。
ご自身が経営者で子どもが2人いて「いずれかの子どもに会社を継いで欲しいと考えたとき」にご相談に来ていただければ、適切な対策を検討できます。
さらにいえば「会社を立ち上げました」という段階で来ていただければ最高です。
弁護士と顧問契約を結んで、コミュニケーションを密に取り、小さな火種を逐次消していけば、大きな問題は発生しにくいですよ。
元気で体が動くうちに、弁護士に「これからうちの会社はどうしたらいいでしょう」とご相談いただければと思います。
——顧問契約となるとランニングコストが気になります!
宿谷弁護士:当事務所の場合は、基本の料金プランは、3万円、5万円、10万円と金額によって相談可能時間や内容がグレードアップする形式です。
しかしこれに囚われないオーダーメイドの顧問契約が可能ですよ。
たとえば「うちは契約書レビューはそんなに必要がないんだよ」ということでしたら、基本料金から割引したり、他の業務を増やしたりといったカスタマイズができます。
お話をしながら、最適なプランを作っていきましょう。
経営者の時間は貴重! 小さな悩みでもすぐにご相談を
——最後に、後継者のこと、事業承継のことで悩む経営者さまにメッセージをお願いします!
宿谷弁護士:現時点で少しでも悩んでいる方は、ご相談ください。
経営者さまの時間は貴重です。
悩みにリソースをとられている時間はもったいないです。
悩んで経営者さまの手や頭脳が停滞するくらいなら、相談していただいて解決策を講じる方がトータルコストは安くなります。
事業承継の問題は、経営者さま1人では解決は難しいでしょう。
後継者の決定や引き継ぎ、商業登記の変更や相続など、弁護士や税理士、司法書士などの専門家がチームを組んで取り組む必要があります。
弁護士法人リーセットでは、経営者さまの事業承継のご相談を受け付けております。
必要に応じて、各専門家と連携をとりながら対応を進めますので、まずはお気軽にお問い合わせください。