遺言書が無効になる場合について

代表弁護士 田中 克憲 (たなか かつのり)

死後に自分の意思を反映させた財産分割ができることから、遺言書を作成する人が多くなっていますが、中でも人気があるのは手軽にできる自筆証書遺言です。しかし、法的に有効な遺言書を作成しなければ、いざ開封された時に無効となるケースもあるため注意を要します。

ここでは、自筆証書遺言が無効とされるケースと対策について解説します。

手軽な自筆証書遺言を無効にしないための作成要件

自分で遺言書を作成し保管する自筆証書遺言は、その手軽さから多くの人に利用されている方法です。作成や保管に費用はかからず、自由に内容を記載して死後に備えることができます。

ただし、せっかく作成した遺言書が後から無効とされないためには、一定の作成要件を満たす必要があります。

  • 遺言者の直筆により作成されていること
  • 修正は所定の方法に従って行われていること
  • 正確な作成日付が記載されていること
  • 遺言者による直筆の署名と押印があること

また、不動産を相続させる場合は、登記簿に基づく正確な所在地・地番・地目・地積等の必要な項目を漏れなく記載する必要があります。

一つでも要件を満たさない点があれば無効となってしまうので、遺言者は事前に作成方法をよく確認してから遺言書を作成しなければなりません。また、自筆証書遺言は家庭裁判所における検認が必要なことから、生前に相続人のいずれかに遺言書の存在を伝えておくか、あるいは遺言書作成のサポートしてもらった弁護士に遺言執行者となってもらうことがおすすめです。

認知症を患っていた故人による自筆証書遺言は無効となる可能性がある

故人が認知症を患っていた場合、その有効性が問題となる可能性があります。まだ症状が軽く意思表示が可能な状態で作成されたことがわかれば良いですが、正常な判断が難しいと思しき時期に遺言書が作成されていた場合、いずれかの相続人が誘導して遺言書を書かせた可能性も否定できません。

この場合は、遺言書の日付や認知症治療の記録、医師の所見等を加味した上で、その遺言書が効力を持つか無効となるかが判断されることになります。

自筆証書遺言が有効か無効かは訴訟により確定する

遺言書に効力があるかどうか、地方裁判所における「遺言無効確認訴訟」で争われることがあります。法定相続人や受遺者を含めた人物から当事者を被告として訴訟が行われます。

例えば、相続人Aが自筆証書遺言は有効であると主張するのに対し、相続人Bが無効であると主張する場合、遺言書に記載された文字が本当に遺言者本人によるものなのか、筆跡鑑定を行う等して確認します。

遺言者が認知症であり、遺言作成時に正常な判断や意思疎通ができる状態だったかどうかを争う場合は、遺言者の治療記録や医師の所見等を参考として判断していくことになります。

遺言書に記載しても全く効力を発揮しない内容とは

故人の意思として残された遺言書でも、内容によっては全く効力を発しない場合があります。特定の相続人の遺留分が侵害されるような遺言内容だった場合について考えてみましょう。

遺言書により故人が分割割合を指定していたとしても、法定相続人には法により最低限の取り分が認められており、これを遺留分と言います。遺言書は最も優先されるべき意思であるものの、遺留分の権利を侵害することはできません。

従って、相続人の遺留分を侵すような割合指定を行ったとしても、遺言書自体が無効になるわけではありませんが、最終的には遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)により意思を実現することができなくなる可能性があります。

このようなケースの場合、当事務所では、生前贈与を活用して遺留分侵害の可能性がある相続人にもきちんとケアを行う等、他のプランによる最善策を提案しています。

間違いのない効力を求めるなら「公正証書遺言」を選択するのがベスト

法の専門家である公証人が作成する公正証書遺言であれば、その作成方法や保管方法に厚い信頼があるため、有効性を心配する必要がなく、家庭裁判所による検認も免除されます。

遺言者は遺言内容を整理した上で2人の証人を伴って公証人役場に出向き、証人立会いのもと、公証人に対して遺言内容を口述します。公証人はそれを書き取り、内容に間違いのないことを確認の上、関係者が署名捺印して作成完了となります。

(※公正証書遺言を作成する際には、公証役場との事前の打ち合わせなどが必要です)

遺言書作成段階から弁護士に依頼すれば不備や遺言書の発見漏れを防ぐことができる

自筆証書遺言で作成すると、どうしても内容に不備が起こりやすく、せっかくの遺言書がいざという時に無効とされてしまう可能性が出てきます。遺言書が無効になれば、財産分割における故人の意思は反映されないため、相続人の間で揉め事が発生しやすくなるリスクもあります。

このような事態を避けるためにも、当事務所では遺言書作成段階からホームロイヤーとして関わることを大事としており、遺言書作成の監修はもちろん、定期的に連絡をいれることによって遺言書の内容がその時点で適切かどうかも確認していきます。

遺言書の有効性は、相続人としては非常に重要な問題となりますので、ぜひ相続に強い当事務所までお早めにご相談いただくことをおすすめいたします。

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